TECH DATA

技術資料

技術読本「機構解析とは」

「機構解析」は「マルチボディダイナミクス」とも呼ばれ、複数の物体がジョイントや力要素を介して連成して挙動する機械システムの、動力学理論に基づくシミュレーション技術です。分野としては、自動車、鉄道車両、ロボット、産業機械、航空宇宙機など、複数の部品が複雑に結合している機械システムに適用されています。
機構解析の基本は古典力学で、ガリレオ (Galileo Galilei)、ニュートン (Sir Isaac Newton)、オイラー (Leonhard Euler)、ダランベール (Jean Le Rond d’Alembert)、ラグランジュ (Joseph Louis Lagrange)らによって築かれた理論です。質点系の力学を定式化して、剛体の動力学が構築されました。

機構解析システムは、基本的に、ボディ、ジョイント、力要素から構成されています。

ボディ
機構を構成する部品で、変形しない剛体ボデと変形を考慮する柔軟ボディがあります。
ジョイント
2つのボディを結合して、ボディ間の相対的な動きを拘束する要素で、回転ジョイントや並進ジョイントなどがあります。
力要素
ボディに取り付けられ、力(並進力、トルク)を発生する要素で、ばねダンパーやブッシュなどが相当します。

機構解析理論の概要

機構解析の定式には、ボディの質量と慣性モーメント、ジョイントによる拘束式およびボディに作用する力とトルクが使われます。

この式で、M は構成部品の質量と慣性モーメントのマトリックス、Cqはジョイント拘束から導かれるマトリックス、𝑄𝑄はボディに作用する力とトルクのベクトル、およびγ はジョイント拘束から導かれるベクトルです。この式を解いて、ボディ(番号𝑖)の6方向加速度q”とジョイントに発生する力とトルク𝜆𝜆を求めます。解析時刻𝑡𝑡毎に求めた加速度を積分して速度q’を、さらに積分して構成部品の変位qを得ます。

なぜ機構解析が求められるか?

【部品集合体としての解析】

「動き」は、世の中に存在するほとんどの物体で、さまざまな場面で発生する現象です。自動車に代表されるような工業製品だけでなく、スポーツでの人体の動きや地震波による構造物の振動なども挙げられます。また、物体は、複数の部品がジョイントやばねなどの部材で結合された部品の集合体(システム)です。
有限要素で代表されるような解析では、システムを構成している部品単品で評価されることが多いです。しかし、複数部品の集合体の場合、評価対象となっている部品は他部品との間の結合力の影響を受けますので、他部品からの作用力を予測する必要があります。機構解析では、複数部品(ボディ)をジョイントや力要素で結合してシステムとして解析をおこないますので、有限要素解析より精度よく、また実構造イメージしながらモデルを作成できるメリットがあります。

【部品集合体としての解析】

「動き」により、システム構成部品の位置やそれらに作用する力は、常に一定ではなく時々刻々変化しています。部品に力が作用することで加速度が発生し、速度が変化して位置が決まります。

また、部品間がブッシュやスプリングダンパーで結合されたり、接触が生じる場合は、速度に比例する減衰力や変位に比例する剛性力が生じます。

接触では、減衰力により、部品の所有するエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー)が失われます。

機構解析では、対象としている現象(例えば、落下)の開始から終了までの一連の経過を把握できます。その一連の動きが評価に与える影響や、評価結果がその後の現象に与える影響を予測できます。
機構解析は、ボディと呼ばれる複数の部品をジョイントや力要素の結合した集合体(システム)について、時刻的な動きの変化を解析する手法です。この手法により、システムの動きを大局的に捉えることはもちろんですが、評価対象としている部品への他部品の影響や、時々刻々変化する動きの影響を予測することができます。